「会社辞めます」。
行き先は、750km離れた
神戸のアイリッシュパブ

「会社辞めます」。
行き先は、750km離れた
神戸のアイリッシュパブ

『The AVERY’S IRISH PUB』に「スタッフ募集してますか?」と一本の電話がかかってきたのは、昨年末のこと。声の主は、九州で働く25歳のサラリーマン。2025年9月から『The AVERY’S IRISH PUB』の店長になったばかりの、穐山(あきやま)駿平だった。

地元・長崎から750km離れた神戸に飛び、目指した先は小さなアイリッシュパブ。

「なんで?って、絶対に聞かれますね(笑)」。人生を大きく変える決断の理由を、聞いてみることにした。

長崎と神戸を行き来していた、“虎ファン”の野球少年

長崎県南島原市。18歳まで自然豊かな島原半島の南で育った穐山は、大学進学のために福岡へ。そこで2年弱ほど、学生服と体操服を扱うメーカーで営業マンをしていたという。

「最初は公務員になって地元に帰りたいなと考えていたんです。でもうまくいかなくて、民間企業で就職することに。福岡での生活は楽しかったんですけど、この仕事は自分には合ってないなって」

神戸との接点はあったのだろうか?

「実は、神戸には毎年のように訪れていたんですよ。父も祖父も僕も、大の阪神ファン。小さい頃から阪神タイガースが大好きで試合を観に行っていました。甲子園球場がある西宮から梅田方面の混み具合はヤバいし、チームの地元である兵庫にいたいと思っていたので、泊まるのはいつも神戸でしたね」

少年野球の監督をしていた父の影響もあり、小学校3年生から高校3年生まで自身も野球に打ち込んでいたそう

大きな転機は、海外サッカーにハマったこと。

サポーターがパブに集う文化を知り、現地の雰囲気を味わってみたいと思い切ってイギリスへ。2024年末から年明けにかけて、会社員の貴重な10連休を丸ごと使って海を渡った。

イギリスで感じたパブの熱気

本場のサッカーとパブに触れてみたい。そんな一心で向かったイギリスでは、ロンドンとリヴァプールの二つの街を訪ねた。

「僕はリヴァプールファン。ロンドンでの試合はアウェイだったんですけど、その日は5対1で勝利。サポーターたちがうなだれて帰るから、スマホの翻訳で『完全に負けやなって確信したらみんなすぐ帰るの?』と近くの人に聞いてみたら、爆笑してました(笑)」

一人旅だったこともあり、何軒か立ち寄ったパブはローカルな店よりも街なかの店を選んだという。それでもその熱気ある唯一無二の雰囲気に「パブで働きたい」という気持ちは一層燃えたとか。

大好きなスポーツと、憧れていた異文化の混じり合う賑やかな空間、幼少期から大好きな街・神戸。点と点が見事に交わったのが、エイヴァリーズだった。

聞けば、イギリスに渡った頃にはすでに店長の田中との面談を終えていたというからびっくり。

「地元の人と同じ体験がしてみたいんです。だから神戸もリヴァプールも、自分もその場所で暮らしてみたい、同じ時間を感じてみたいと強く思ったんですよね」。その行動力、恐るべし!

ちなみに地元には、阪神ファンの“猛虎会”が集まる馴染みの居酒屋があるとか。パブ好きの原点はおそらく、この居酒屋なのかも?(笑)

神戸での新たな一歩がスタート!

スピーディーな決断と行動で、今年2月には神戸へ移住。「本当に神戸に来てよかった」と楽しそうに笑う姿が印象的だ。

「神戸はやっぱりオシャレな街で、散歩をしていても楽しいですね。これまで大阪や京都は気軽に行けるような場所じゃなかったので、新快速一本ですぐに着くのが信じられないです。でも海があったり、一方通行の道が多かったり、どこか長崎に似た風景もあって落ち着きますね」

「神戸 アイリッシュパブ」で検索して、一番上にヒットしたのが偶然エイヴァリーズだった。たったそれだけの理由かもしれないけれど、人生を変えるには十分すぎるきっかけだったのかもしれない。

「お客さまとの距離も近いし、みんながつながって盛り上がっているのを見ていると本当に幸せですね」。イスラエルやノルウェー、ドイツなど多国籍なスタッフや素敵なお客さまに囲まれて、店長としての一歩を踏み出した。

目の前のお客さまを大切にしていきたい

昔から、車庫に延長コードを引っ張ってきて、スポーツ観戦をしながらみんなでBBQをするのが好きだったという。

無意識のうちにパブを自宅でも再現していた穐山だが、実は飲食店はまったくの未経験。しかも直属の上司は、超ベテランの田中。きっと愛のムチがビシバシ飛んできたに違いない。

「いつも良さん(田中)から言われているのは、とにかく行動しろということです。僕は勢いのあるタイプではあるんですが、仕事では行動に移すのが遅いので。とにかくどんなことでもやってみないと、成功か失敗かもわからないですもんね」

店長ってお店の顔だから、素直に嬉しかったです」と、店長になったときの想いを振り返る

1席あたりのギネスビールの販売量で国内1位から2位になってしまったが、ランキングはあまり気にしていない。「目の前にいるお客さまに喜んでもらうことを一番に大切にしたいですね」。なんだかすでに、頼もしい。

パブの魅力を、次の世代へ

2007年にオープンしたエイヴァリーズは、今年で19年目。積み重ねてきた歴史を受け継ぐプレッシャーよりも、お店をより良く進化させていけるワクワク感の方が上回っている。

同世代の子たちに「エイヴァリーズってどう?」と聞いてみると、オシャレだけど少しハードルが高いと返ってきたそうだ。

パブの文化を知らない若い世代にもいかに気軽に来てもらえるかは一つの課題。飲みに行くときの選択肢に、パブが当たり前に入るようなムードが作れたら最高だ。

絶対に守り続けたいのは、“第二の家”としてのアットホームな雰囲気。「お客さまを一人にさせたくないんです」

普段なら交わることのない人たちが、ふと肩を並べる。チームを応援したり、会話が生まれたり。年齢も国籍も関係なく、笑いあう。

エイヴァリーズの日常には、そんな魅力的なドラマがある。

「僕が仕事だと感じているのは、オープン前の準備とクローズ後の片付けだけ。営業中はお客さまと一緒になって楽しんでるので、実は仕事だと思っていません(笑)。今日はどんな人が来てくれるんだろう?と想像するだけで、本当にワクワクするんです」

お客さま想いで、好きなことに一直線な新店長。

19年目を迎えたアイリッシュパブに、さらなる進化の予感がする。

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