2025年11月。二宮商店街の近くの小料理屋『NEW SAKURA』に、とある6人が集まった。
共通しているのは、(ほぼ)全員が35歳前後であること。そして出身地ではない神戸を拠点にしていること。
飲食店、親子の場所づくり、SNSマーケターなど、フィールドの異なるメンバーたち。
いまこの街で感じていること、夢見る未来とは?
R35世代の座談会が、ゆるりと幕を開けた。
メンバー紹介
西川 伸/TEAM MARE 料理人、オーナー
大阪生まれ神戸育ち。祖父が台湾出身の華僑。神戸の和食店での修業を経て、『路地裏スタンド アベック』など街場の酒場で経験を積んだ後、『二ノ宮 稀』『NEW SAKURA』をオープン。実は昔はNSC生だったという意外な過去も…!?
村本優馬/『ベーカリーバカンス』店長&ブランドマネージャー
奈良県出身。「若くても勝負できるかも」と中学生からパン屋を目指し、大阪屈指の人気ブーランジュリーで修業。2017年からは『ベーカリーバカンス』の立ち上げのために神戸へ。現在はブランド全体をまとめている。
追中 隆/『ル・クロワッサン・ド・バカンス』店長&製造責任者
広島県出身。製菓専門学校へ通っている途中で「もっと身近な食べ物に携わりたい」とパン職人の道へ進路変更。大阪の修業先に後から入ってきたのが村本だった。バカンスブランド2号店、3号店の立ち上げにも携わる。
キャスパー・エリック・ソレンセン/『祇是』ヘッドシェフ
デンマーク出身。京都『木乃婦』で懐石料理を学び、イギリスでは鮨マスターとして世界で活躍する遠藤和年さんに師事。ロンドンのミシュラン星付き店のDNAを受け継ぐ日本初出店レストラン『祇是』オープンのため神戸へ。
佳山奈央/ラヴィベル株式会社代表
大阪府出身、大学進学を機に神戸へ。子どもたちが人生を楽しむ大人の背中に出会える世界を目指し、保育士常駐の室内遊び場や一時預かりを行う『おやこの世界をひろげるサードプレイス PORTO』『PORTO TABLE&BAR』を運営。
早川一樹/株式会社LIB creation.代表
愛知県出身。「キラキラしていて憧れた」という神戸にふらりとやって来て、早10年目。元ダンサー・元美容師という異色(?)の経歴を持つ。現在は主に、SNS運用を通して飲食店のブランディングや発信のサポートを行っている。
「神戸に元気がない」って、誰が言い始めた?
政令指定都市のなかでも、人口減少が進んでいる神戸。「なんだか街に活気がない」とここ数年よく耳にするようになったけれど、本当にそうなの?
確かに大阪や京都に比べると人の数は少ないですけど、神戸ってどんどんおもしろくなってると私は思うんです。みなさんにも意見を聞いてみたいんですが、どうですか?
僕が神戸に来た8年前より再開発も進んで、楽しい雰囲気が高まっていると思います。
パン屋目線でいうと歴史あるパン屋さんがたくさんあって、街に根ざしたパン文化があるのもおもしろいです。
確かに。大阪でもパン屋で働いていたからこそ感じるのは、神戸の方がお客さんとの会話があること。作ったパンがどんなふうに食べてもらえているかが見えるというか。
なるほど〜。僕は20代ぐらいまで、「こんなちっちゃい街出てやる!」と思ってました(笑)
元気がない場所もあるかもしれないけど、それも含めて良さなのかも。最近はここで骨を埋めてもいいかもと思えるほど好きになってきました。やっぱり住みやすいんですよね。
そう!自然と街のバランスがちょうどいいですよね。
おしゃれなイメージだけが先行していて実は昔は苦手だったんですけど、ディープな下町も田園風景もすぐ近くにあって、思っていたより多彩な表情があることを知ってからは大好きになりました。
海外の視点から見た神戸は“強い街”
また違う角度からこの街を見ているのが、6人のなかで唯一海外からやって来たキャスパーさんだ。
神戸は人が温かくてすごく好き。確かに、街の雰囲気はちょっとだけゆっくりかな。それだけは少しもったいないと思います。もっとアピールしていった方がいいなと。
キャスパーさんがヘッドシェフを務める『祇是』では、兵庫の多彩な食材を使ったコース料理を展開している
僕は名古屋から出てきたんですけど、神戸の街に元気がないとはあんまり感じていないんです。
ただ、SNS運用でお店のサポートをしていると、確かに「もっと発信すればいいのにな」と感じる部分はあります。
そうです。でも情報ってもう飽和状態じゃないですか。
僕は(西川)伸さんと出会ったことで二宮界隈のおもしろさを知ったんですけど、これからはコミュニティを作って盛り上げていくことが大切なんじゃなかなと。
みんなで高め合いながら、街のブランドを作っていけたらと思っています。
少し話は変わりますけど、キャスパーさんが日本料理の道に進んだきっかけは、デンマークのアルバイト先で食べた日本のお米のおいしさに感動したからだそうです。
なんかうれしいし、それで神戸にやって来たのもすごいことですよね。
「京都も魅力的だけど、オーバーツーリズムのせいもあって街の雰囲気が結構変わってしまいましたよね。神戸はアピールするチャンスだと思いますよ」
京都で暮らしているとき、おいしい食材はどれも兵庫県産ばかりで驚きました。だから、いつかここでレストランを開きたいと思ったんですよ。
兵庫県の強みの一つが、神戸。神戸にたくさんいいものが集まるからです。
ブランディングをきちんとやったら、本当に強いと思います。すごくポテンシャルがある街ですよ。
インバウンドについて思うこと
神戸はもう少し観光客が増えてもいいなとも思うんです。「神戸=神戸ビーフ」みたいなイメージしかない海外の方も多いですけど、そこをプッシュしすぎなんですかね?
いや、問題は、国内でも海外でも神戸ビーフは食べられることなんじゃないでしょうか。もちろんブランド自体は強いけれど、神戸に来る理由はそこじゃないと。
神戸ビーフ以外にも、この街は魚介類や野菜などすばらしい食材の宝庫ですよね。生産者さんの情熱と努力の結晶ですよ。
そういえば、うちはアジアのお客さまが増えたなと思います。中国の企業が視察に来たりもしました。
そうなんです。やっぱり「中国4000年の歴史」というだけあって文化が発展してきた場所だし、中国の人は手先も器用。パンのオリンピックみたいな大会でもどんどん入賞してきているんですよ。
しかもパンの完成度、めちゃくちゃ高いんですよ。
神戸に来てもらうという点も、こちらからの海外への参入も、どっちも考えていかないとですよね。
叶えたい夢、ありますか?
神戸の狭さは、逆に良さでもあるのかなって。小さなコミュニティでつながるだけで満足せずに外へ視点を向けて動けば、狭さも愛おしく感じられるように思います。
最初に伸さんが『神戸は狭いから出て行きたいと昔は思ってた』と言ってましたけど、今後のビジョンはどう考えていますか?
そうですね。簡単に言うと「傭兵軍団」を作りたいんです。
チームだけど全員が自立していて、技術や人間性も高いメンバーが揃っているような。たとえば僕が海外でとった仕事をメンバーに振り分けたり、派遣会社みたいにもなればいいなと。
基盤はあくまで神戸ですけど、場所を選ばず、みんなで成長を共有できたらと思っています。
早川さんは、西川さんの店舗のSNS動画も手がけている
しっかりブランディングできる動画編集の会社って実は多くはないんです。いろんな飲食店さんと密に絡み合いながら、貢献していけたらと思っていますね。
私の展開している事業は保育寄りなのですが、日本の子育てを変えたいと思っています。ちょっと大きなことを言って恥ずかしいんですが…。
大学生の時に出産した佳山さんは、自身の経験を活かして「おやこの世界をひろげるサードプレイス P O R T O」を運営している
“子どもを産んだら、自分が大切にしていることを後回しにすることが当たり前”という風潮が嫌で。私、夜には子連れでも飲めるバーもやっているんです。たまたま隣り合った人と喋って世界が広がるとか、発見があるとか、新しい出会いが飲食店の醍醐味。子育て中こそ世界を広げて子どもに教えてあげたいから、安心して交流できる場所を作りました。
僕も子どもが2人いるので、すごく共感します。今日も義理の弟に頼んで子どもを見てもらったからこそ、こうしてみんなと出会えました。
僕はこの6月にお店ができたところなので、まずは神戸の街でしっかりと根付くようにチャレンジしたいですね。
「キャスパーさんのお寿司、ほんまにうまいんすよ〜」と西川さん
個人としての夢は、海外にも行きたいなと。日本のパンをもっと知ってもらいたいです。3店舗目でようやく専門店ではない“普通のパン屋”をやったことで、パン屋というものの本質に近づけたというか。パンって楽しいものだし、おいしいもの。コンビニよりも多少高くても絶対においしくて体にもいいものを広めていきたいですね。
神戸のパン屋さんって、楽しいですよね。息子にパンを買って帰ると絶対「それ、どこのやつ?」って聞かれます。
ロンドンでも和カフェが人気だったり、抹茶や食パンが流行っていますよ。日本の食ってすごく強みになりますよ。
作ってる側としても楽しいですよ。大阪時代はそれどころじゃなかったんですけど、師匠はやっぱり偉大で、パンの世界の未来を担ってきた人やったなと感じています。だから僕らも恩返しができたらいいなって思います。
僕は、バカンスブランドをパン業界で無視できない存在として確立させたいです。神戸には大きなパン屋さんがいくつかありますけど、その勢力に食い込んでいきたい。
それは働き方を大きく変えていきたいからでもあるし、バカンスを食べて育つ家庭を増やしたいから。どこまでいっても、僕らは家庭に支えられていますからね。
人生やキャリアの分岐点に立つ、R35世代。
先行きの見えない世の中で、確実なものなんてなかなか見つからない。だけど確かに言えるのは、神戸にはこんなに前向きな人たちがいるってこと。
この街の未来のカギは、彼らの世代が握っているのかも。