熊田原農場の押岡さんと、
宮崎地頭鶏との出会い
源流にはいつも一次産業に携わる人がいる
私たちがお客さまに提供するお料理が想いのバトンだとすれば、源流には必ず一次産業に携わる方がいます。その一人が、宮崎県日南市、熊田原農場の養鶏家・押岡和義さんです。
押岡さんが育てているのは「みやざき地頭鶏(じとっこ)」。地頭鶏は、飼育環境や飼育方法・飼料のほか、ちょっとしたストレスによって大きく味わいが変化する非常にデリケートな生きものだそうです。
そのため、ストレスのかからない環境での飼育を独自に研究。育成プロセスが重要だと身をもって体験されたのちに、育雛舎ではオンラインも駆使しながら、24時間体制で環境管理を行なっています。
豊かな自然のなかで育った地頭鶏と押岡さんにお会いした日のこと。そこで私たちが感じたことを、みなさまにもお伝えできればと思います。
ずっと気になっていた、押岡さんの地頭鶏
押岡さんにお会いする前のこと。鶏が大好きな杉本は、こんなことを考えていたといいます。
「南九州には鳥刺しの食文化があり、日本では宮崎県と鹿児島県のみ、生食用食鶏肉の衛生基準があるんです。安全に処理された鶏肉がいいなぁ…と思いネットで情報を調べていたある日、『この人めちゃくちゃ鶏が好きなんやな』と感じる、情熱の強い方を見つけました。芦屋と東京の焼き鳥屋さんなのですが、両方ともが押岡さんの育てた鶏をお店で取り扱っていたんです」
とにかくこだわりが強く、生産を一貫して担っているところに興味を持ったという杉本。「いつか行ってみたい…」とうずうずしていたら、Timelessオープンの話が舞い込んできたいいます(なんというタイミング…!)。

ちなみに先ほどの芦屋の焼き鳥屋さんというのは、名店「永来権」のご店主・渡辺さんのこと。以前より渡辺さんと親交のあった増永は、押岡さんの鶏肉についてお話を聞かせていただきたいと、杉本と共にお店に伺うことに。
するとありがたいことに「現地へ行ってみては?」と快くご縁を繋いでくださり、ご縁がご縁を呼ぶように宮崎へ向かうこととなりました。
最初から最後まで一貫した「責任」
これまで焼き手としてずっと料理をしてきた増永は、初めて生産者さんの元へ。「豊かな自然に囲まれた環境だけでなく処理に至るまですべてがキレイで、食の安心感につながっていると感じましたね。また、徹底的に数字を管理して『じゃあ次はこうしよう』と常に上を目指されている押岡さんの姿も印象的でした」。

「一般的には育てる人・処理する人・販売する人が別々なことが多いんですが、押岡さんは自分が育てた最高の鶏を最高の状態でお届けしたいという想いから、最初から最後まで一貫して責任を担っておられるんです。食べる人のことを本当に考えていらっしゃいる押岡さんの徹底した姿勢に感動しました」と杉本。
丸鶏の状態から焼き鳥になるまでの過程は、普通は生産者の方はあまり目にすることはありません。ところが「どうすればもっと喜んでいただけるか?」と、飲食店側とも密にコミュニケーションを取りながら、二人三脚のように鶏を育てていくのが押岡さんの凄さです。これこそ、真の意味での “一貫” なのかもしれません。
「おいしい」の声が聞きたくて
「僕はやっぱり豚肉が好きなんです」。
押岡さんが放った一言は、増永と杉本、そして同行していた社長の神尾にとっても非常に印象的な言葉でした。
2日目の朝。屠殺の現場で、「これは自分の職業なんです」と押岡さん。
その言葉はとても重く、意味の深いものです。愛情を持ちつつも、経済動物だという意識をしっかり持って区別すること。命をいただく重み…。
言葉ではいい尽くせないほどの想いがあるからこそ、「豚肉が好きなんです」とおっしゃったのかもしれません。

一次産業の世界で突き抜けた存在の押岡さんが手がける、圧倒的においしい地頭鶏。“これが一般的”という育て方よりも、自分が育てたい理想の鶏にとって本当に良い飼育を実践し、どうしても固くなりがちな地鶏も驚くほどやわらかな肉質に仕上がっています。
そして絶妙な火入れで一層おいしく提供するのは、今度は私たちの腕の見せどころです。「おいしい」の声を聞けるのが、生産者にとっても私たちにとっても一番の幸せ。ぜひ、私たちの焼き鳥を楽しんでいただけると嬉しいです。