店も焼き鳥も“良い加減”でいこう
地鶏と炎との付き合い方
「目指す焼き鳥って、どんな感じですか?」
店主の増永にこう尋ねてみたのが昨年12月のことでした。
オープンから9ヶ月が経ち、当初と今ではきっと何らかの変化があるかもしれないなと思ったからです。
「地鶏を扱うようになり、(以前の店で使っていたものとは)皮の質が全然違っていたんです。皮が口に残らないように皮目パリッと火を入れつつ、身はふっくらジューシーに仕上げるための絶妙な焼き方をずっと模索してきました」
現在は新しい焼き台を導入していますが、以前の焼き台とは仲良くなるのに随分と手こずっていたといいます。また、理想の焼き方で提供しようと思うとどうしても少し時間がかかってしまうという課題も抱えていました。


また、肉をさばき串を打つという“焼く前”の工程においても、探り探りでベストを求めてきました。冷蔵庫から出した鶏肉をさばく際の徹底した温度管理など、増永にバトンを渡すまでにもあらゆる工夫を凝らしています。
「皮の乾燥具合や切り分ける大きさも調整してきました。でも、(増永とは)意見が合わないこともあったんです」とは、仕込み担当の杉本。ところが、火の入り方や日によって違う炭の状態などを実際に自分でも体感することで、「どんなふうに食べてもらいたいかという着地点が増永とは少し違っていたことも新たにわかったんです」といい、それもまた面白い発見だったと振り返ります。
食べ疲れしない、ちょうどいい塩梅
「1本目はもう少し塩味が欲しいかもと思ったけど、いま4本食べ終えてみて、塩加減がめちゃくちゃちょうどええわ」
焼き鳥の大事な要素である「塩」について田中が触れました。

「そう。最初のインパクトを考えると確かにもうちょっと塩を効かせたくなる気持ちはわかるけど、これ以上塩が強いとしんどくなるでしょ」と増永。旨みの余韻をしっかり楽しんでいただきつつも、食べ疲れしない塩加減もまた大切にしているところです。
“良い加減”を奏でていきたい
焼き鳥そのものについて料理人として深掘りしていくのは当たり前。お客さまには、火を囲みながら味わう本能が喜ぶ食体験を楽しんでいただきたいと考えています。あくまでそのための要素の一つが、焼き鳥や炉端焼きなんです。
だからこそ私たちスタッフが理想とするのは難しい顔で焼き鳥と向き合うことではなく、お客さまのためにライブで最高のパフォーマンスをするミュージシャンのような存在。毎日の営業がライブです(笑)
いい加減という言葉はマイナスなイメージがありますが、私たちが求めているのは“良い加減”なのかもしれません。適当な仕事ぶりではただのいい加減。プロの仕事しか“良い加減”は実現できませんが、かといってガチガチに型にハマりすぎても心地よいグルーヴ感は生まれないはずです。
だからこそ、適度に余白を持ちながら、迷い
ながらも進んでいく。私たちは焼き鳥や空間において、そんな“良い加減”を誠実に実現し続けたいと考えています。
