【テンチョーカイギ番外編】
海と山のあいだで
島のこれからを耕す、
奈留島の店長の話
長崎県・五島列島の奈留島に、『アウトドアカフェ 島の山小屋』という一軒のカフェがある。
島の憩いの場でもあるこの場所。山小屋、と聞くと山頂に建っているイメージだけれど、すぐ目の前には青い海!さすが、海と山が近い島。なんだか不思議な気持ちになる。


店を営むのは、店長の梅村功太郎さん。島の人から“ウッディ”の愛称で親しまれている彼は、埼玉出身。移住組の一人だ。
これまで【バカンス、奈留島へ行く】と題して、チームバカンスの奈留島での挑戦を追ってきたテンチョーカイギ。
次の記事で紹介するコラボカフェ。その舞台となるこの店で、梅村さんと出会った。
都会から移り住み、5年目。この島にいる理由を聞くと、「コンビニがないからです」。ちょっと面食らう回答に、テンチョーカイギ編集部の興味が湧いた。聞けば、カフェの運営だけではなく、猟師として山にも入っているのだとか。

今回のテンチョーカイギは、奈留島で偶然出会った店長を取り上げる番外編。
なぜ地元を離れて自分の店を持ち、山に入るようになったのか?
離島で自然と向き合う梅村さんの現在地と、これからの夢を聞いてみた。
※『島の山小屋』では鹿・猪などの食肉販売は一切行っておらず、有害鳥獣駆除として捕獲した鹿や猪は自家消費しています。
都会を離れて、ひとり長崎の離島へ
梅村さんが奈留島に移住したのは、今から約5年前のこと。
「僕は東京で働いていたんですが、ずっと自然が好きで。地方移住がしたいと思っていた矢先、コロナ禍に突入。いろいろリサーチしていたところ、偶然見つけたのが五島市の地域おこし協力隊の募集だったんです」

2022年から地域おこし協力隊として、離島留学生の学生寮の運営や、子どもたちの放課後教室などに携わった。
そして3年間の任期満了を迎えた現在も、梅村さんは奈留島に残っている。
その理由は、冒頭のとおり。「コンビニがないからなんです。奈留島に来たときは、コンビニがあるかどうかすら知らなかったんですけどね(笑)」
よくよく話を聞いていくと、それはただ不便な場所が好きという意味ではなさそうだ。
「コンビニがないくらいの“ちょうどいい不便さ”を心地よく感じているんだと思います。最初は不自由だなと感じていました。天気が悪いとフェリーは止まるし、スーパーは19時半に閉まるし……。でも、だからこそ生活をきちんと考えるようになり、今あるものでなんとかしようと思考を働かせるようになりました。そんな暮らしが、なんだかしっくりきています」
月の満ち欠けで魚や動物の動きが変化し、その日の食卓が変わることもあるという。
人間の行動が左右されるほど、日常に溶け込む自然。都会では自然が癒しだったのに、いまでは自然が慌ただしい日常そのものに変わった。

この島ならではの、山小屋という拠点づくり
そして、隊員として活動しながら、空き家を購入。のちに『島の山小屋』となる場所だ。
「セルフリノベーションしてコツコツとつくり上げていったのが、島の山小屋なんです。五島の食と自然体験の拠点として、旅の途中に立ち寄ってもらったり、ここを目指して島に来てもらえたらうれしいですね」。そう話す通り、カヤック体験やレンタサイクル、水晶岳登山ガイドといった、大自然を生かしたアクティビティも楽しみ方の一つ。
もともと山が好き。学生時代にはアウトドアスポーツやパラスポーツを学び、キャンプ実習やアウトドア活動の拠点として山荘を身近に感じていた。だからこそ、島にもそんな場所をつくりたかったという。

さらに、前職は飲食業。
子どもの頃から料理好きで、学生時代に独学で調理師免許を取得したという梅村さん。数量限定の週替わりランチでは、海の幸と山の幸を詰め込んだ五島の食の魅力を伝えている。

取材中、島で暮らす人からも『ゆっくりできる場所ができて助かっている』という声を聞いた。
「地域への効果みたいなところは、後付けみたいなものなんですけどね。あんまり計画を立てずに、勢いでやりたいことをやってしまった感じなんです(笑)」

漁業の島で、山に入る理由
もうひとつ気になるのが、猟師としての顔だ。

奈留島と聞くと、まず思い浮かぶのはやっぱり海。実際にこの島は、古くから漁業の島として知られてきた。けれど梅村さんが惹かれたのは海だけではなかった。

「漁師の島ですが、僕は山が好き。山の奥に入っていくと、かつて人が暮らしていた集落跡を目にしました」
かつて人が暮らしていた場所が、少しずつ山へ還っていく。人の気配が薄れたその場所は、いまでは鹿や猪の住処になっている。
奈留島では有害鳥獣として鹿や猪が捕獲されている。しかし、島内には食肉として流通させるための施設がない。有害駆除として捕獲された鹿や猪は、その多くが埋設処分されているそうだ。
「食べられることもなく、活用されることもなく、土に埋められていく。それで本当にいいのか?と考えました」
命を無駄にしないため。島の資源として生かすため。それが、島で猟師になった理由だ。


山と海はつながっている
梅村さんいわく、山と海はつながっているという。
山で起きていることは、山の中だけでは終わらない。川を通じて海へとつながり、やがて魚や磯の環境にも影響していく。すべてが循環しているのだ。

山を守ることは、この豊かな海を守ることにつながるはず。
そう信じて、カフェと猟師、二つの仕事を行き来している。
今後の夢は?と聞いてみた。
「そうですね。島に解体処理の施設をつくって、奈留島のジビエを流通させたいです。カフェでお客さまにジビエ料理を楽しんでいただけることが目標。革や角の商品化にも取り組んでいきたいです」


縁もゆかりもなかった島で、空き家を店に変え、海と山を行き来しながら、梅村さんは自分の働き方を形にしてきた。
最初から正解が用意されていたわけではない。
カフェを開くことも、自然体験の拠点をつくることも、猟師として山に入ることも。
目の前にあるものを見つめながら、できることをひとつずつ試していく。その積み重ねが、いまの『島の山小屋』につながっている。
テンチョーカイギ番外編。
奈留島で出会ったのは、店の中だけに収まらない店長だった。
店長という仕事は、思っているよりずっと広い。
全国にはきっと、まだ見ぬすばらしい店長がいる。
そんな期待を抱かせてくれる出会いだった。
