太陽と虎×ノクモン×イナズマ
ちょっと頑固なこの街の
ローカルスピリッツは消えない

日本酒バル・米屋 イナズマ

清水 龍生

太陽と虎×ノクモン×イナズマ
ちょっと頑固なこの街の
ローカルスピリッツは消えない

音楽と食。アプローチは違えど、それぞれの現場で神戸のカルチャーを支え、人々が立ち寄れる居場所を守り続けてきた3人。

自分たちの原点や、店やバンドという居場所への想いを語り合ってきた本連載も、いよいよ今回が最終回。

やってきたのは、松下が手がけるフード&バー『Ride MINATO』、そして清水が店長を務める『日本酒バル・米屋 イナズマ』。4軒ハシゴしたけれど、まだまだ絶好調!

『Ride MINATO』にて。楽しそう!

話題は、音楽チャリティーフェス『COMING KOBE』の葛藤と新たな一歩。
さらに、それぞれの根底にある音楽への情熱、神戸の未来についての本音トークへ。

震災を知らない世代が増えていく中で、この街で何を残し、未来へつないでいくのか。
夜の深まりとともに語られる本音と、グラスを重ねる音。神戸という街を愛するすべての人に届ける、連載最終回がスタート!

第1回・第2回の記事はこちらから

太陽と虎×ノクモン×イナズマ 音楽が、僕らをここまで連れてきた

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太陽と虎×ノクモン×イナズマ 誰かにとって心地いい場所は、 やっぱり街に必要だ

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日本酒バル・米屋 イナズマ

PROFILE

松下直道
KNOCK OUT MONKEYドラマー/NOM株式会社代表取締役。神戸発のスケート&アパレルブランド『RideMe』や、フード&バー『Ride MINATO』『串かつ でんちゃん』の運営も手がけている。結成25周年を記念し、全国ツアー「UPSIDE DOWN TOUR2026」を開催中。
上田佑吏(ゆうり)
株式会社パインフィールズ代表取締役。『MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎』やチャリティー音楽フェス『COMING KOBE』の運営、アーティストのマネージメントやグッズ制作などのほか、鉄板酒場『月のうさぎ』など飲食業も担う。
清水龍生
『日本酒バル・米屋 イナズマ』店長。長年にわたり飲食の現場に立ち、神戸→東京→神戸へカムバック。料理人&店長として神戸の店づくりに携わっている。実は元バンドマンで、松下とは20年以上の付き合い。

カミコベ22年目、伝えることの難しさ

震災から10年経った2005年に「復興支援に対する被災地からの恩返し」として始まったチャリティー音楽フェス『GOING KOBE』。その名称は『COMING KOBE(通称:カミコベ)』に変わり、今年で22年目を迎えた。
阪神・淡路大震災から30年を迎えた昨年。その役割は「恩返し」から「未来の減災・防災」へとシフトしているようだ。

清水
清水
カミコベ、長く続けていてホンマにすごいよね。僕ら飲食業は土日が仕事やから、タイミングがなかなか合わへんのがもどかしい……。
ところで、来てくれるお客さんって、もう震災を知らん若い子らがほとんどでしょ?
上田
上田
そうですね。20代が半数以上です。僕自身も、震災を知らない世代の1人なんですよ。
これまでは「神戸からの恩返し」って言い続けてきましたけど、これからは過去を風化させることなく、防災や減災の意識を広めるのがメインだと思ってるんですよ。昨年で震災から30年という節目を迎えて、カミコベにとってもここからが新たな1年目だと考えてます。
松下
松下
2023年に2DAYSで開催されたときは、震災を「知っている世代」と「知らない世代」で分けたよね。動員数は変わらなかったけど、やっぱり若い世代の方が募金額は少なくて。
もちろん若い子にいろんな余裕がないという理由もあるやろうけど、どれだけこちらが想いを伝えていくかが大切よね。
上田
上田
そうなんです。まさに「伝え方」に悩んで、考えすぎて落ち込むときもあるっすね。
長く続けているとどこかでマンネリ化もあるし、1つずつ見直していかなアカンと思っていて……。
清水
清水
ルミナリエだって、本来の意味が薄れてきてるもんね。
上田
上田
アーティストにも無料で出演してもらってるんですが、やっぱりステージの上で伝えてほしい言葉はあります。今年は約630万円の募金が集まったんですけど、お客さんが約2万人来ているので、募金額は1人300円ほど。何万人もの人に伝えるのは難しいですけど、僕の伝える力があればもっと募金を伸ばせるんじゃないかなと思うんですよね。

震災を知らない世代にバトンを渡すために

松下
松下
イベントはお父さんから受け継いだものではあるけど、その原動力って何なん?
上田
上田
そこはもうめっちゃシンプルで、もう誰にも死んでほしくないんですよ。僕ができることって限られてるけど、でも持っているものは音楽しかない。カミコベではいろんな企業さんに協力してもらって「減災ヴィレッジ」っていうブースを設けてるんですけど、特に若い子たちに震災や災害、防災を知ってもらいたいという気持ちです。これで救える命があるなら、絶対にやる意味はあるなと。
被災地支援や震災について考えるきっかけをつくるための「減災ヴィレッジ」の一コマ。ただ音楽を楽しむだけじゃないポリシーが伺える。
松下
松下
実際に佑吏は被災地支援にも行ってるもんね。しっかり現実を見に行ってるところもすごいよ。

上田
上田
共感した学生の子たちが手伝ってくれたりもして、やっぱり嬉しいですよね。どんどんバトンを渡していきたいです。
なんか、地元のお祭りとかもそうじゃないですか? 昔からあるお祭りって、誰かが主催でやってるわけじゃなくても、伝統として受け継がれていく。カミコベが、そんな街の祭りになったらいいなと思いますね。
清水
清水
アーティストが活躍できる場所にもなればいいよね!
上田
上田
ホンマにそうですね。今では大きな箱でライブをしているアーティストに、「カミコベで初めてアリーナのステージに立ちました。あの経験があるから今があります」と言ってもらったことがあって。武道館に立つような人と対バンできる経験も、夢のあること。そんな場所を作りたいというのも、僕の原動力かもしれないです。
「“楽しかったな”で終わるのはフェス。僕らはチャリティーイベントなので、集めた募金を被災地に届けるまでがカミコベやと思ってます」(上田)

「やっぱりバンドが好き」

上田が背負うカミコベの熱量に深く頷きながら、話題は松下が貫いてきた“表現者としての原点”へと移っていく。

清水
清水
そういえばみんな神戸生まれでずっとこの街にいるけど、松ちゃんは東京に行くっていう選択肢はなかったん? 東京でやっていく実力もあるのに。
松下
松下
東京の方が個人の仕事も多いけど、やっぱりバンドが大好きなんよ。X JAPANのYOSHIKIさんに衝撃を受けてドラムを始めた中学生の頃からずっと、バンドの魅力にとらわれてる。バンドじゃないなら、音楽をやってる意味がないね。
清水
清水
そっか、やっぱりバンドが好きなんや〜!松ちゃん、やっぱり10代の頃から全然変わってないなぁ。自分の音楽に魂がある。
上田
上田
直道さんって、仕事が嫌になることはないんですか?
松下
松下
いや、やっぱりあるよ。「何やねん、TikTokでバズりやがって。めっちゃしょうもないやんけ。こんな時代に音楽やりたくないわ!」って思うことは多々あった(笑)
でもやっぱり、ずっと大好きなL’Arc〜en〜Cielさんとか、現役のかっこいい先輩方を目にするとね。
清水
清水
そっかぁ。俺、松ちゃんがKNOCK OUT MONKEYに入る前のことも覚えてるよ。だからなんか、感慨深いなぁ……。
そんなふうに色々なことが変化してきたけど、聴く音楽も変わってきてるの?
松下
松下
うん。全然、ブルーノ・マーズとか普通に聴いてるで。
清水
清水
えぇ、そうなん!?(笑)
「ブルーノ聴くんや!?」と、思わぬ名前に食いつく二人。「とにかく音楽が好きなんよ。あとは海。だからこの店も、リゾートっぽい雰囲気にしたんよね」と松下。

“ちゃんと眠る街”のローカルスピリッツ

いよいよ4軒目!
松下
松下
しかし、神戸ってほんまキレイな街よね。東京から帰ってきて、夜に車で神戸大橋から見る景色がエグすぎる。神戸に住んでて良かったって思うんよね。
上田
上田
芸術的な街ですよね。海も山も街もあって、そのグラデーションが横浜とはまた違うんですよ。
松下
松下
いいところでもあり悪いところなのが、世間が狭すぎるってところかな。なのにちょっと都会ぶってるっていう(笑)
神戸のバンドも、結構特殊なんですよ。言い方が悪いかもしれないけど、大阪のバンドは時代に染まっていく感じ。神戸はオリジナリティがあって、おもしろいんよ。飲食店も似てるような気がするなぁ。
清水
清水
頑固ってことなんかな?
松下
松下
そうそう! 大阪の友だちにも言われる。「神戸の人は頑固や」って。絶対に自分を曲げない人が多い気がする。負けん気が強いというか。
上田
上田
わかんないですけど、震災を経験しているのは大きいんじゃないかなと思っていて。
清水
清水
あぁ〜、確かに!
上田
上田
作り上げてきたものが地震で0になって、そっからまた再興していこうって、すごい意志がないとできないですよ。「何くそ精神」みたいなプライド然り、頑固さがないと復興はできなかったと思います。あとは、絆が強いですよね。
でも、僕らは胸を張りたいですね。このローカルスピリッツに。
清水
清水
うんうん。ただ、やっぱり夜が早すぎるよね。
松下
松下
ほんまに。神戸は“ちゃんと眠る街”やもん。
上田
上田
行政がナイトタイムエコノミーを推進してるぐらいやから、ほんまにそうなんでしょうね。やたらキャッチはおるのに、歩いてる人は少ないんですよねぇ……。
「めっちゃおいしい!」と、イナズマ名物のエクレアをパクリ。

音楽と食で「まだまだここから!」

夜もいよいよ深まり、話題はこれからの街とカルチャーの未来へ。再開発でキレイに姿を変えていく神戸の景色のなかで、変わらないローカルスピリッツと、「新しい神戸」について語り始める。

清水
清水
やっぱり、みんな神戸が好きだし、この街がもっと元気になってほしいという気持ちは同じよね。
これからの神戸じゃなくて、「新しい神戸」を考えたことってある? そうなると、守らないといけないものも変えないといけないものも出てくるよね。
上田
上田
そこのチューニングがすごく難しいと思いますよね。イベントも、店も、街のカルチャーも、続くことは当たり前じゃないですもんね。
でも、ジャンル関係なく、街のあちこちで音楽に触れられる街になったらいいなと思います。中規模のライブハウスも増えたらいいなぁ。
港町ですし、神戸は文化の街。それをもっと全国に知れ渡らせることができたらいいですよね。
松下
松下
モトコー(元町高架下)も完全封鎖されてしまったよね。夜市とかをしたら盛り上がりそうやのに。やっぱりキレイにするだけじゃダメで、もっと人が集まる名物がいると思うな。もっと柔軟な街になってほしいというのは、真剣に思うところやね。
清水
清水
ほんまはもっと早く都市開発をする予定やったけど、それが震災で遅れてしまったんよね?
松下
松下
そうそう。でも、(その遅れを)取り戻さんくてもいいのに。
上田
上田
ほんまそうですよ。海外の観光地を見ても、別に都市が大きくなくたって、そこ独自のものがあればいい。神戸やからこそ、これやねん!っていうのがあれば、それでいいんですけどね。
10年後の神戸もそうですけど、10年後の自分について考えることもありますか?ビジョンとか。
松下
松下
少し先にいる理想の自分を、ずっとクリアしてきてるつもり。「何歳までにここまで行けなかったら諦めよう」って、20代くらいから目標を繰り返し持って生きてきたんよね。
だから色々あったけど、今が一番みんなに見てほしい自分。自分もバンドも、今が一番かっこいいと思う。
清水
清水
おぉ〜!めっちゃかっこいい!
上田
上田
近くにいるからわかりますけど、なんかすごく楽しそうなんです!
清水
清水
いやぁ、舞台は違えど、こうやって前向きな仲間と繋がっていられるのはすごく嬉しいなぁ……。
松下
松下
改めてこうやってじっくり話すのはいいよね。普段は「お互い元気やったらそれでいいやん」みたいな感じやし、自分の頑張りをわざわざ自分から話すわけでもないから。こういう機会があって喋れてよかった。
上田
上田
僕もです!普段話さないような真面目な一面も見えたし(笑)、お互いがどういう思いでお店やバンドをやっているのか、その熱量を再確認できたのはほんまに新鮮でした。神戸の街についてこれだけ熱く語り合えるのはすごいですよ。
清水
清水
松ちゃんが「まだまだいける」って語ってくれた姿には、めちゃくちゃ刺激を受けたしジーンときた。僕もまだまだいけるはず。この街で一緒に頑張りたいね。
……松ちゃん、まだまだいけますか?
松下
松下
まだまだいきますよー!
上田
上田
まだまだやりましょう!

続けることは、きっと始めること以上に難しい。

悩んで、立ち止まって、それでもまた店に立ち、ステージに立ち、次の景色をつくっていく。

「まだまだ」。その一言には、続けてきた人にしか言えない強さがあるような気がした。

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